「夢」。
映画『プリンセスと魔法のキス』は、大きな夢を持つヒロインの心の変化と、夢の行方を描いた物語。
私が観たのは、心揺れ動く夜。
いまから3年前ーー。
初めて現実から逃げて夢を追いかけたくなった。追いかけることがこんなに苦しいのなら夢を諦めて楽になるのかな?……そう思う瞬間に必ず、夢を持つ自分のことは別に嫌いじゃないって心臓の叫び声が体じゅうに響いて、夢を見れなかった子どもが諦めの悪い大人になっていた。
「星に願いをかけるだけじゃ夢は叶わない。努力しないと」
そう言う彼女の名前は「ティアナ」。ひどく真面目なヒロイン。
ディズニー映画のなかでは珍しい、「恋」より「仕事」、白馬の王子様を待つのではなく、自分の夢、仕事の成功を望む彼女は、私からはとても眩しい存在だった。ごく一般的な家庭に生まれたのは一緒なのに、いまの私より夢を見ている瞬間をとても楽しんでいたから。
・夢が叶わなくて諦めようと思っている人
カエルとキス。人生の転機
彼女は、カエルとキスをして人生の転機を迎える。
きっと誰もが、いまこうして読んでくださっている方にも、人生の転機があってディズニー映画のようにファンタジックな出来事はない、私の29年も同じようなものだった。
転機って良いように思えても、決してその時、全てが楽しいものじゃない。
人生ゲームだとしたら、ほにゃらら星人が現れて、強制的に挑まれたジャンケンで負けて、暗闇に真っ逆さまに落とされてしまうような、理不尽なもの。けれど振り返ると、いまでは楽しかったように錯覚して、星人とのひとときを体験できてよかったみたいにバカになって思えてる。
カエルとキスをした彼女も、夢から距離が大きくかけ離れるような転機を迎えるのだが、誰の手も借りることなくひとりで道を切り開こうとしていた頃の彼女だったら、感じられなかった、大切なことが見えてくるようになるのだ。
ピンチはチャンス、と言うように転機というのは悪いことから良いことへの跳ね返りが大きいようにも思う。
儚いホタル。いつまでも星に願っていたい
作中で出会う仲間がすごく好き。
とくに「レイ」。彼はニューオリンズの川に住むホタル。「エヴァンジェリーン」という女性を愛し、いつか一緒になることを夢に見ていた。
けれど、彼は彼女が夜空に光り輝く“ひとつの星”だったという真実を知ってしまう。それでも愛しのエヴァンジェリーンと呼び、最後の最後まで諦めずにラブコールを送り続ける彼の姿は本当に泣ける。
「叶わない夢だ」と誰しもが思うようなことでも決して夢を諦めず、信じ続け叶う、その時を楽しみにしている姿は、いくら遠い遠い夢だとしても信じる気持ちの大切さに気づかされる。
忘れていた本当の気持ちに大切を抱くこと
ヴィランズ(※)に呪いをかけられるように私は自分自身に、「諦めたほうがいい」という呪いをかけてしまっていたことに気づいた。本当の気持ちを大切に抱くことで呪いが解けて夢が広がっていくのかもしれない。
本作はこれまでのディズニー作品を否定するかのようなセリフが目立つ点も面白い、今では珍しいCGではないという点も、ディズニー映画ファンにとっては評価したいところ。
人は弱いから、心の真ん中に秘めた目標を叶えようと、それだけに必死になると本当に大切なことを見失ってしまう、そんなことをディズニー映画らしいキャラクターと物語そして音楽が教えてくれた。

※ ヴィランズ…ディズニー作品に登場する悪役の通称
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