『寝ても覚めても』水に浮きずみしながら流れる

お久しぶりです。こめこです。
大きな悲しみでなくても、季節の変わり目に学校や職場など些細なことで大したことない日に鬱々とした気持ちが付きまとうこともあるかと思います。そんな頑張りすぎている人達にお見舞い申し上げます。

そういうときは、静かな映画でも観て時間を贅沢に使ってみてください。

DogEarFilms流 こんな人にオススメ
・友人とも恋愛の話をはしない人

・たまには静かな、ひとりを過ごしたい人に

・俳優さんに興味のある人がいる

『寝ても覚めても』

 

ー物語は、大学生の夏から始まる。運命のように朝子と麦は出会って恋に落ちた。その2年後、麦と同じ顔をした亮介に朝子は東京で出会う。麦と亮介を重ねてはいけないと葛藤する朝子と、自分のことが気になって仕方のないような朝子に惹かれていく亮介。二人の間の「気持ち」に揺れ動く朝子の情景。

重苦しく感じるような話に、麦と亮介の一人二役の東出昌大さんと朝子役の唐田えりかさんの爽やかな画が相反して胸が締め付けられます。

どんぶらこどんぶらこと流れながら観に行って

個人的に本作主題歌Tofubeatsさんの「RIVER」が気になって観に行ってきました。
大阪の川をイメージして作ったそうで、歌詞の「さわるたびに心は ほろほろとはがれる」というフレーズに少し昔のことが思い起こされて、最近の私はささくれてんなと感じとってしまったので日記風な感想を。

上映館のテアトル新宿に一人で向かう。公開日の9月1日、ファーストデーは立ち見の方もいて、一人で観に来てる人が多かった。昔ながらの映画館だからこそフラッと立ち見もできる。

本作を観終えて私が感じたのは女性に「強がらなくてもいい時間」をくれる良い映画だと思った。男性には、しっくりくるのかなと思ったのだけどテアトル新宿の階段には、映画のシーンとともに、男性作家からの、この物語に儚さを感じたコメントが並んでいた。

出てくる人達のモノローグが少ない分、それぞれの役の背景に贅沢な空白をくれる。その空白に自分の想いを重ねてしまうのに男も女も関係ないのかもしれない。

ジャンルは恋愛映画でなく今の時代の青春映画

この映画が気になってる友人に「ラブストーリーなの?」と聞かれたけど、どちらなも言えば「青春映画」っていったほうがしっくりくるかも。青春と言っても学生時代だけでなく、男女関係なく友達みんなで集まってご飯を食べながら話すだけの時間は青春だと思える人にはしっくりくるはず。そういう潮合い。

人付き合いのなかで、誰が付き合ってて、誰が嫌いとか、表面的なことだけではなく、自分は何で人に惹かれたり距離を置きたくなったりするのか問われた気がした。

挿入歌は自分たちだけのセンスの世界に拘っていた夏が連想される。一聴して知らない曲だけどカッコいいしセンスを感じる。『サニー』のようなメジャーな青春音楽じゃないけど、そこが良かった。

今はそれなりに幸せだと思える生活ができていて、それでもこれで良いのか迷いながらの日常。それは、青春の積み重なった日々なんだと揺らいでいく眠りに落ちるのか目が覚めていくのか分からない「青春の潮合い」を私は感じた。

そして、友人でも恋人でも他人同士だから分からないけど、分かり合おうとするのでなく相手の立場も受け止め流れていくことを描いた今の時代の話でした。

主演俳優さん達の演技力

東出昌大さんの麦は似た人を連れてきたのかと思ったほど亮介との対照的な一人二役。東出さんにしてはボサボサの髪が珍しくその「ゆるさ」にときめいてしまう。

唐田えりか女神像を具現化したような大人しくあざとく素敵な主人公の朝子。唐田さんでなければ不自然な話になりかねない話を、爽やかな魅力でとつとつと演じられている。

伊藤沙莉さんのためのようなぶっとんでる朝子の友人の春代役。若い俳優さん達の実力が凄い。

私のおすすめは瀬戸康史さんと渡辺大知さんと山下リオさん。

特に舞台好きの方はクッシーこと串橋役の瀬戸康史が出てくるまで絶対に席を立たないでほしい。瀬戸康史さんのワンシーンが終わると私は心の中で拍手するほどだった。

あと渡辺大知さんの目の演技には魅せられるものがある。何気なくこの二人の魅力的なシーンがサラッと使われているのはこの贅沢さを増やしている。
全員が力のこもった青春の時間をそれぞれの個性で演じていた。

パンフレットもこの俳優さん達の夏の思い出を写したアルバムのスクラップブックのような作りだった。

オチは良い結末なのか、悪い結末か

良いとか悪いとか、正義とか悪とか、理性とか本能とか気にしないで見に行って良かった。

そしてふと流れる最後のシーンが何故か頭から離れないようになって一週間くらい思い返したから、この映画堪能できたと思えた(笑)寝ても覚めても頭から離れない。

そして、最後のシーンから映画館に「RIVER」をがかかると、短い邦画のエンドロールが、まるで朝子達と過ごしていた時間のように早いようで穏やかに流れていった。

ここからはクライマックスから結末にかけての大きなネタバレを含みます。ご注意ください。

亮介と麦とを揺れ動いていた主人公・朝子の好きなシーンに私なりの感想をこめました。

窓の外に携帯を落とすシーンがすごく綺麗だった。

−衝撃の亮介と朝子の前に麦が現れる。

この映画で唯一VFX技術が使われてところだと思う。一人二役の東出さんが2人いたけど一瞬の出来事だった。麦は朝子の前に手を差し出した。

-朝子は麦と逃げることを選ぶ。

この時に朝子の二人の友人から連絡がくる。春代からはラインで「カッケー」的な一言。マヤからは鳴り止まない電話という対照的な行為。

春代は昔からの友人なのが分かるし、マヤは亮介への思いとともに朝子を心配するのだけど、なんとなく亮介を置いて朝子が麦という向こう側の人間と繋がってしまう妬みを感じてしまうように見えた。山下リオさんの演技がうますぎてマヤが本当に嫌いになってしまった(笑)

そして、朝子は麦以外との関係を切るようにとスルッと窓の外に携帯を捨てた。

あなたじゃないと気付いた感覚

−シーンは少し戻って朝子の友人の春代とマヤと3人の女子トーク。

青春のような食事会で彼の喫煙について話合う件。マヤの彼は禁煙中。朝子の恋人の亮介は喫煙者。

「キスする時の匂いが嫌じゃない?」という春代に、朝子は亮介とのキスは「それもツンッとしてええ。」と答える。春代とマヤから二人から惚気か〜と言われていた何気ないシーン。ここは伏線だったのか!と私は後から気付いた。

そして、話を戻して逃げた夜から話が進むと伏線回収。

朝子が目が覚めて麦とキスをしたときに、思い出とタバコの匂いも含めて亮介じゃないと感じたから、朝子は車を降りた。初めてここで自発的に戻らなきゃと思ったのかもしれない。

よく思い返すと朝子は麦の面影を通して亮介を気になってはいたが、アプローチをかけているのは全て亮介からだった、大人しい朝子に対して一方的に話を進めてしまう亮介はある意味図々しく感じるほど。

それでも朝子は亮介を好きになっていたから、ずっと亮介に麦を重ねていたのを後悔して過ごしていたのかもしれない。それに気付いた朝子は、その思いをこの仙台の海に麦との青春を置いていったよう。

本当に人を愛すということは惨めにもなれる

-「これ以上は行けない。」という朝子を、麦はすんなり車から下ろして去ってしまう。

いつも大人しく、人からのきっかけで動いていた朝子が、自分から東北地を歩いて普段は亮介と支援してる側の人にお金を借りに行く。


哀しげに仲本工事が東北訛りで亮介を裏切った朝子を責める。被災した人の言葉は、弱い立場と人の脆さを実感しているからなのか、なんだか朝子と亮介たちが楽しげに震災の復興支援をしに来ていたときより朝子という弱くて愚かな人と被災者の「つながり」を感じてしまう。

-朝子が亮介の元に戻る。

亮介の怒りや悲嘆の姿を見て、東出さんの中身が溢れるほどの演技というのが分かる。のめりこんでいる演技とは裏腹に、真面目な印象の東出さん要素の少ない麦の浮ついて流されながら生きている演技が素晴らしく思えてしまった。

私が「空白」の部分に見たシーン

麦と岡崎の出演シーンは少ないのだけど、なんだか子の二人の雰囲気が圧倒されるようでした。
こんなシーンはないのだけど「悔いや後悔が残るのが青春だし、たまには濁流に飲まれてもいいんじゃない」と麦に声をかけられ。

青春に戻りたくなったら、いつでも戻っていいけど通り過ぎたものにしがみつくのは覚悟が必要。と病気で動けなくなった岡崎がそう目で訴えてる気がした。

最後まで粛々としたシーンが続いて衝撃とかいうよりもこびりつく感じ。青春を思い出す中ですっかり忘れていた「青春」という心の傷の瘡蓋が剥がれた。

麦との逃避行から目が覚めてから朝子は自分から頭を下げて亮介に戻ったこと。色んな覚悟を決めて日常に進むように、私も惨めでも進んでいこうと思った。

それでも、個人的にこの映画を見て朝子の感情を「すぐに」飲み込んで「分かる」と言う男性は信頼できないです。(笑)朝子の友人の春代が、麦との初対面で「あぁいうやつが一番、女を泣かせる」と朝子に忠告したように。

麦と亮介の2つの味

最後に劇場で同じ飲み物だけど味が違うと企画されたジュースが売ってて、麦がライチカルピス、亮介がピンクグレープカルピスだった。私はライチのジュースを飲んだのだけど、最初は麦の言動のように驚くぐらい甘ったるくて飲めなかった。なのに氷で薄まったジュースは麦との思い出のようにスルスル飲めた。

ピンクグレープフルーツのジュースは飲まなかったけど、ライチの甘さとは対照的に亮介のタバコのほろ苦さを表現したのだとすぐに分かった。面白い企画なのでテアトル新宿さん行ったらお好きな方を飲んでみてください。

Tofubeatsさんの曲を好きすになって友達に冗談でトラックメーカー紹介してと話したら、車のトラックと勘違いしてマジモンの技術者を紹介されるところでした。対照的!

【公開日】
9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

【キャスト】
東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子

【スタッフ】
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香『寝ても覚めても』(河出書房新社刊)
脚本:田中幸子、濱口竜介
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)

【配給表記】
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

 

この記事をシェアする

ABOUTこの記事をかいた人

こめこ

笑えるだけの映画も考えされられる映画も希望を与えてくれるものが好き。本当に好きなもの、おすすめしたいです。 新作の感想は少ないかと思いますが、旧作やDVDなどのレビューから、お気に入りを発掘してもらえたら嬉しいです。